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 このホームページは、科研費基盤研究(C)「統合から分断へー共和党最高裁の成立とその将来的限界」(研究代表者:大澤秀介、課題番号23K01085)による研究成果の発信及びフィードバックを得ることを目的に作成されたものです。作成にあたっては、国立大学法人総合研究大学院大学文化科学研究科地域文化専攻博士後期課程に在籍する築山欣央氏から多大な協力を得ました。


 研究の対象となるアメリカ連邦最高裁判所は、1954年のBrown v. Board of Education判決において公立学校の人種別学制度を違憲としたのを皮切りに、1960年代以後投票価値の平等、被疑者・被告人の権利、表現の自由、信教の自由などの事件で、個人の権利を重視するリベラルな憲法判決を多く下してきました。しかし、このようなリベラルな憲法判断、とくに1973年に下されたRoe v. Wade判決で、個々の女性の自律的判断を重視しアボーション(人工妊娠中絶)の権利を認めたことに対しては、カソリックや福音派などの保守的な宗教団体を中心に強い批判を浴びることになりました。

 このような保守派からの批判とそれに対するリベラル派の反論は、文化戦争とも呼ばれる事態を引き起こしましたが、保守派はアボーションの権利を認めたRoe判決を覆すために、1980年のレーガン共和党大統領の誕生を契機に、連邦最高裁の保守化を進める強力な運動を展開しました。その運動の特色は、周到かつ広範なもので、まず共和党に対して連邦最高裁への保守的な裁判官の任命するように働きかけました。さらに、それだけでは不十分であるとして、アボーションの権利に反対する法学者や実務家からなるフェデラリスト協会を結成するとともに、全米のロー・スクールに協会の支部を置き、Roe判決を否定する保守的な法律家を育成し、連邦最高裁への任命を目指すネットワークを形成しました。

 その成果は、とくにトランプ大統領のときに連邦最高裁裁判官の空席が3つ生じ、トランプ大統領が空席に任命する裁判官候補者の選択を、フェデラリスト協会に実質的に委ねたため、すでに共和党の大統領に任命されていた連邦最高裁の首席裁判官を含む3名と合わせて定員9名中、6名の保守派裁判官が絶対的多数を占めるという形であらわれ、連邦最高裁の保守化が完成しました。このホームページでは、そのような保守派裁判官が絶対的多数を占める連邦最高裁を「共和党最高裁」と呼びます。

 共和党最高裁は、保守派の長年の宿望であったアボーションの権利を完全に否定する憲法判断を2020年のDobbs v. 判決で下しました。しかし、共和党最高裁の保守的な判断は、アボーションの権利の否定だけにはとどまりません。それは、ニューディール以後の国家体制、例えば行政国家体制の否定という全面的変革に至る可能性を有しています。このような共和党最高裁の行動は、いずれ強力な外部的反対や内部的な論理破綻によって修正を受ける可能性がありますが、連邦最高裁の裁判官については終身任期制がとられている結果、少なくともあと30年近くはその保守的な判断を下し続けることになります。

 そこで、このホームページでは、そのような共和党最高裁の成立、保守的な憲法判断の引き起こす正当性等の問題、他の統治機関との関係など幅広く今後の共和党最高裁の軌跡と波紋を追いかけることにしたいと考えています。皆さんからの感想やコメントも踏まえて、ホームページの内容を逐次充実していきたいと思っていますので、感想やコメントなどありましたら、お寄せ下さるようよろしくお願いいたします。