分析Approach

 共和党最高裁という課題に対する分析アプローチについて、特にこれまでと変わったアプローチがあるわけではありません。大きく大別すると、社会学的アプローチと規範的アプローチに分けることができます。

 社会学的Approach 

 社会学的アプローチは、事実を重視してそれを分析対象として、共和党最高裁の内実を明らかにしようとするものです。この点で注目されるのは、ウッドワード(Bob Woodward)とアームストロング(Scott Armstrong)の書いた『ブレザレン(“The Brethren: Inside the Supreme Court”)』に代表される報道関係者による連邦最高裁の内幕物です。共和党最高裁との関係でいうと、最近ではグリーンハウス(Linda Greenhouse)やビスクピック(Joan Biskupic)の書いた本が興味深いものとなっています。


 そのほか連邦最高裁の行動を政治学的手法によって描く書物も数多くあります。アメリカでは政治学の一分野として、司法政治学とよばれるものがあります。その初期の代表的な業績として、ニューディール期の連邦最高裁の裁判官の判決行動を裁判官のイデオロギーと関係づけてとらえた1948年のプリチェット(C. Herman Pritchett)の『ルーズヴェルト・コート(The Roosevelt Court)』があります。現在、アメリカ政治学会では司法政治学における優秀な業績に対してプリチェット賞(C. Herman Pritchett Award)を授与しています。それらの業績にも注目する必要があると思います。

 規範的Approach 

 規範的なアプローチとしては、連邦最高裁の判決を憲法学者らが分析して、そこに判決傾向を見出そうとするものがあります。このアプローチは、もっともオーソドックスなものといえます。アメリカのロースクールの憲法の教科書は、そのような狙いをもっているといえます。
 ただ、共和党最高裁というテーマとの関係では、連邦最高裁の判決の正当性が重要なテーマとなりますので、司法審査と民主主義の関連が重要となります。この点で古典的な著作として引用されるのが、イリィ(John Hart Ely)の『民主主義と司法審査(Democracy and Distrust: A Theory of Judicial Review)』です。共和党最高裁に関する司法審査と民主主義の関係を理論的に扱おうとする書物も最近少しずつあられていますが、共和党最高裁の判決が下され始めてまだ日にちも浅いことから、本格的な内容のものはまだのように感じています。


 むしろ現在の段階で注目されているのは、共和党最高裁の保守派裁判官が憲法解釈で依拠するオリジナリズムの内容でしょう。初期のオリジナリズムは力強いもののその内容はそれほど複雑なものではありませんでした。そのため、当時はオリジナリズムに対抗するリベラルな憲法解釈方法である「生ける憲法論」の方に注目が集まっていました。しかし、アメリカ政治の分断化を背景に法曹界における保守的思考を身に着けた法律家の育成が進んだ結果、オリジナリズムが憲法解釈論として看過できない存在になってきています。わが国でも、最近アメリカにおけるオリジナリズムや「生ける憲法論」の著作の翻訳化が進んでいますので、今後注目すべきだと思います。